生きるとはなんだろう 後編

久しぶりに行った美容室では、途中で眠くなってしまい大変でした。

美容室って、たいてい音楽が流れていて、ドライヤーのブ~ンという音や人の話し声がいつも聞こえています。
主人にはそれらがクラウドノイズのように聞こえているらしく、
(クラウドノイズ:アメフト用語。ファンが大声を出して相手選手の声をかき消しプレーを妨害することをいいます。
 NFLのような大きな試合だと何万人ものファンが一斉に声を出すので、大変な騒音になります)
それを無意識に選別して意識から追い出すことが難しいため、カットを始めてすぐにとうとうと…。

これは普通の睡眠とは違い、脳がオーバーワークで『落ちて』いる状態のため、
叩いてもゆすっても起きることはありません。

ある程度時間がたって、脳が再起動するのを待つしかないのです。

私ともう一人のスタッフさんで身体を支えながらの散髪になりました。


幸い10分ほどで再起動できたので、お店から出たらお目目はパッチリ。
通り道にある和菓子屋さんでおいしそうな麩まんじゅうと、大好きな上生菓子を買いました。
色とりどりの小さなお菓子の中から主人が選んだのは、
抹茶の餡に小さな角切りの寒天と、もっと小さな白と黄色の粒を散らしたその名も『朝露』ですって。
KIMG095002.jpg


主人は茶道を嗜んでいた訳では全然ないんですが(汗)でも昔から大好きなんです。
それを忘れずにいてくれて良かった。

糖尿病と和菓子は相性が悪く(糖質が多く油分が少ないので血糖値が上がりやすい)
いくら血糖コントロールが良い状態でも、せいぜい2ヶ月に一度食べるかどうかです。


帰り道、私は疲れていました。

美容室にいるだけで覚醒レベルがダダ落ちしてしまう。
大好きなお菓子もめったに食べられず、『そういえば、あれが食べたいな』と意思表示もできない。
(目の前にあれば手を伸ばしますが)
いや、それをいうなら移動も食事も排泄も着替えも何もかも、一人では何もできない。

高次脳機能障害。
やっかいな後遺症です。
いつか治るかもしれないとはかない期待を抱きつつ頑張ってきましたが、
恐らくこの先、あまり変わることはないでしょう。

5年前の秋、脳外科の病室で、こんこんと眠り続ける主人の枕元に立って
命だけでも助けて欲しい、どんな姿になっても生きていて欲しいと、あらゆるものに祈った時には
こんな後遺症があるなんて全然知りませんでした。

本当にこのままなんだろうか。
何か他にできることはないのかしら。
どうしてあげたらいいんだろう。

続きはこちらから



悶々と考えながら車いすを押していると、
向こうから小柄なおばあさんが歩いてきます。

そして
おばあさん01

突如として明るい声を上げて近づいてきました。
おばあさん02



デイサービスAさんの利用者さんで、主人とは同じ送迎車に乗っているそうです。

「◎×さん、今日はお散歩?どこ行ってきたの?」
「髪を切りに行ってきたんですよ」
「あら、そう、いいわね」
おばあさん03

おばあさんはとっても嬉しそうに主人を見ながら
「この間ゲームで同じチームになったのよ、とってもいい笑顔だったわ」
とか
「私の事ちゃんと覚えてて、毎回挨拶してくれるのよ」
とか
「この人話す事はできないけど、ちゃんとわかってるの。そうでしょ?」
などなど、
普段は分からない、利用者の視点からみた主人の様子(しかも良い面ばかり)を話してくれました。


この方、3年前にご主人を亡くされたそうで、
「うちのも脳内出血で倒れてね、10年介護してきたのよ。それが終わって今度は私が介護される番なの」
と明るく笑っておられました。
「だからね、分かるわよ」
と私の肩をたたいて激励してくれました。


おばあさんと別れて家路に向かいながら、私はちょっとだけ明るい気持ちになりました。


主人は、確かに一人では何もできない。
他人にとっては、生きる価値など全くないようにみえるだろう。

私も時々、それが見えなくなってしまう。
『何もできない』事に絶望してしまう。

でも、主人は一人のおばあさんをあんなに楽しそうに笑わせてるじゃないか。

心に小さな明かりをともしてあげられてるじゃないか。


マザー・テレサの言葉をふと思い出しました。
"We can do no great things, only small things with great love."
『私たちは、この世で大きいことはできません。 小さなことを大きな愛をもって行うだけです。』



私、何もできないって思いこんでたんだね。


おばあさん、素敵な笑顔をありがとう。
お父さん、生きていてくれてありがとう。
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Comment

  • 2014/07/09 (Wed) 23:40
    poco #- - URL

    mikomonaさん、大事なことに気付かせて下さってありがとう
    私も母に言わなくっちゃ
    お母さん、生きていてくれてありがとう!って

  • 2014/07/10 (Thu) 08:37
    あんぱん父さん #- - URL

    ・・・・・・・・・・何も考えない !

    いっしょに馬鹿になりましょ !

  • 2014/07/10 (Thu) 09:13
    しのん #- - URL

    昨日の前編のときには、なにか嫌なことがあったのかしらと心配していましたが、
    後編を読んで、私もそのおばあさんにありがとうという気持ちになりました。

  • 2014/07/10 (Thu) 18:57
    たかさん #- - URL

    私も高次脳機能障害で、出来る事しかやりません。
    高いハードルは登らずくぐってます。
    いつか…と思ってます。

  • 2014/07/12 (Sat) 16:22
    mikomona #- - URL
    pocoさん、こんにちは。

    pocoさん、こんにちは。

    お母様のこと、言葉に出来ない苦労やストレスがたくさんたくさんあるとお察しします。
    病気が原因とはいえ、すべて受け入れるのは無理ですよね。
    私も堪忍袋がビリビリ破れそうになることがあります。

    それでも、毎日毎日の生活は休むこともできません。
    ほんの少し立ち止まって考えたくてもそれもできない。

    このまま流されていくのだとしたら、
    せめて、最後まで心だけは通じあっていたいなと切実に願います。

    だからこその、今日の笑顔ですね。

  • 2014/07/12 (Sat) 16:52
    mikomona #- - URL
    あんぱん父さん、こんにちは。

    あんぱん父さん、こんにちは。

    いつも温かいコメントありがとうございます。

    違う意味でおバカだから、いろいろ考えちゃうのですね!
    何も考えない…そんな境地に早くたどり着きたいです!

  • 2014/07/13 (Sun) 04:28
    わー&かーママ #- - URL

    なんか読んでたら涙がでてきました。

    時々いろんなことがわからなくなります。
    でも、ニコニコ笑ってくれる我が子をみると、もうさっきまで考えていたことが取るに足らないどうでもいいことのように思えたりします。
    時々我が子が神々しいお地蔵さまに見えたりします。

    私自身まだ気持ちの浮き沈みがあって、どっと疲れたりすることもあります。
    でも記事を読んでいて、大切なことについて考えてみました。
    素敵なお話ありがとうございます♡

  • 2014/08/18 (Mon) 01:04
    mikomona #- - URL
    わー&かーママ さん、コメントありがとうございました

    長い間お返事できなくて、本当にすいませんでした。

    東京に戻ってらしたんですね。
    だいぶ落ち着かれましたか?

    病院が途中で変わると、どこでも苦労すると思います。
    同じ健康保険で運営しているのに、全然やり方が違うんですよね。
    慣れるまではいろんな壁にぶつかって大変でしょうが、
    きっと良い出会いがたくさん待ってると思います。

    日中はまだ暑いですが、どうも不安定な天気が続いてますね。
    お嬢さんたちもママさんも、どうぞ体調崩さないようご自愛ください。

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