最初はリハビリ拒否から始まって(笑)←今だから笑える
顔や喉のマッサージやシャキア(頭部拳上訓練)など、嚥下に関わる筋肉を鍛えるリハビリを地道に続けてきましたが、
ここ数ヶ月で、随分言葉が出るようになったなぁと思ってはいたんですよね。
そんなある日、
台所の片付けをしながら何となくリハビリの様子を聞いていました。
「……あ、い、う、え、お はい!」(言語聴覚士さんの声)
「あ、い、う、え、お」
「いいですね、じゃあ次行きますよ、 か、き、く、け、こ はい!」
「か、き、く、け、こ」
「おお、すごい!じゃあ次は? さ、し、す、せ、そ はい!」
「さ、し、す、せ、そ」
おおおお!!
すごい!!!
思わずベッドサイドに駆け寄って、
「た、ち、つ、て、と」
「な、に、ぬ、ね、の」
と順調に復唱する主人を見ていました。
こんなにたくさんの言葉を、正確に復唱できるなんて、今までになかったことです。
まるでスイッチが切り替わったみたい。
とうとう「わ、い、う、え、お ん」まで言えました!
すごいなぁ。
何がおきたんでしょう。
失語症は高次脳機能障害の一つです。
高次脳機能障害の大きな特徴の一つに『短期記憶の保持』が困難なことがあります。
短期記憶というのは、7(±2)桁の数字ぐらいのデータで、
例えば新聞のように改行がたくさんある長い文章を読む時は、
一行の終わりを短期記憶に次々に受け渡して次の行の始まりと繋げ、全体を把握していきます。
ところが失語症になると、一行を読んで短期記憶に渡し、次の行へ目を移す間に
記憶が消えてしまうので前後のつながりが分からなくなってしまうんだそうです。
『看板は読めても新聞は読めない』と以前リハ科の先生に教えていただいたことがあります。
言葉を話す時も、例えば『テレビ』を見て、これがテレビだと言うことは分かりますし、
『これはテレビです』と言いたいと思い、『これはテレビです』という言葉も頭のなかにあるそうですが、
声を出そうとした瞬間に、何を言いたかったのかを忘れてしまうんだそうです。
(以前主人がそう言ってました)
『テレビ』という単語を短期記憶が保持しきれないのでしょう。
加えて、主人には『保続』という症状があります。
直前の行動を繰り返してしまう症状です。おそらくこれも短期記憶の障害が原因だと思います。
なので、これまでの主人なら、50音を全部言おうとすると
『あ、い、う、え、お』を何度も繰り返し、あれ、おかしいなと気づき
さて、何を言えば良いのか分からなくなりおしまい…だったんですよね。
言葉もそうですが、動物の行動はとても複雑で、繊細で、高度な働きが絶妙に組み合わさって成り立ってます。
私は医学の素人ですけど、脳にダメージを受けた主人の行動を通して、
ソファに寝そべってテレビを見ながらスマホでLINEの返事を書き、おせんべいをかじって、今夜のメニューを考えるという(笑)
何気ない行動でさえ、実はものすごいことをしてるんだな、と思えるようになりました。
主人もいつかはそんなふうに、マルチタスクをずいずいとこなせるようになるかな?(笑)